1996年10月29日号(No.138)


                     Nutsの表紙です



目次

*『たくあんの問題』
*『VOICE』
・投書「選挙について」 ・投書「ある痛みについて」 ・投書「宇宙での不在者投票」 ・ひとりごと
*『今週の歌』
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『たくあんの問題』

 さて、「たくあんの問題」なのであります。
 いきなり「たくあんの問題なのよね。」と言っても大部分の方には、お分かり 頂けないものと想像いたします。(当たり前や。)
 これは、「たくあんなんて、大キラ〜イ。」などという個人的な問題ではありま せん。自慢ではありませんが、わたくし、たくあんそのものも、そして彼らが、 ごはんの上に残す黄色い足跡も、日本人として力一杯愛しております。
 くだらん話はこのくらいにして、そろそろ本題に入りましょう。
 事件は、ある日本食レストランで起こったのであります。
 私と友達は、そのレストランで、カツ丼をオーダーしました。
 しばらくすると、適当にジューシーで、なおかつ、しっかりと火を通したすばら しいカツ丼さんが運ばれてきました。
 その時、カツ丼さんとは別に、みそ汁とたくあんが運ばれてきました。それら が、私たちのテーブルに置かれ、バングラディシュ系のウエイターさんが去った 後、その友達がたくあんを指さしながら、こう言ったのであります。
 「これって、日本じゃ、絶対やらないんですよね。」
 わたくし、思わずたずねました。
 「え? 何が?」
 彼は、続けました。
 「日本じゃ、絶対、たくあんを3枚出したりしないんですよ。”身(三)を 切る”って言って、出すときは必ず2枚なんですよね。」
 「へえ〜。」
 正直な話、わたくし、その習慣と言いますか、その決め事をそれまで知りません でした。
 私自身、日本にいる友達に「結婚式のプレゼント何かいい?」と聞かれ、「よく 切れる包丁がいい!」と言ったら、「”縁を切る”って言って、結婚式には、包丁 なんかあげないんだよ。」などと言われてしまった常識ハズレ人間でありまして (でもその時は結局包丁を頂きました)、この「たくあん事件」の時も 「へえ〜。」と感心したといいますか、「世の中、知らんことばっかりやのう。」 とあらためて日本文化の奥の深さと面倒臭さを思い知ったのでありました。
 その後、わたくし、ガツガツと食べ始めたのですが、実を言いますと、「この ”たくあんの問題”をお店の方にお知らせすべきか、すべきでないか」ということ について、カツ丼さん食いながら密かに悩んでおったのであります。でも、結局、 私は何も言わずにそのレストランを後にしたのでした。
 そしてその日から、私のココロの中に「たくあんの問題」なるものが住み始めた のであります。
 以前、このNutsに掲載した投書の中に、「NYの日本食レストランのウエイター、 ウエイトレスは、料理の並べ方だとか扱い方をちっとも知らん。」という内容の文を お書きになった方がおりました。
 これも基本的には「たくあんの問題」と同じタイプの問題です。要するに 「日本の慣習を知らないために起こった問題」なのであります。
 「そんなの”問題”って考える方がヘンだよ。ほっとけばいいじゃん。」という 意見をお持ちの方もいることと思います。
 そうなんです。ほっとけばいいのです。
 たくあんを3枚並べても、ごはんとみそ汁の位置が逆でも、このNYの社会は、 そんなこと気にもせずキチンと回っていくのであります。
 でも、そういうことにコダワリを無くした時、同時にその人は日本人として何か 大切なものをなくすような気が、私はします。
 少なくとも私は、そういうのを「ほっとけません」派です。できることなら、 たくあんは2枚であって欲しいし、ごはんは左、みそ汁は右に位置して欲しいので あります。
 皆さんはいかがでしょうか。「近頃のニューヨークの日本人若い衆は、躾が なっとらん。」とか「日本食の基本的な決め事なんか、ちっとも知らん。」とか いうお小言は置いといて、「では、なぜ私たちは、異国の地に来てまでも、日本の 慣習に従わなくてはならないのか。」ということについて具体的に説明してくださる 方はいませんでしょうか。
 また、「ほっとけばいいじゃん」派の方々は、なぜ「日本の慣習に従わなくても いい」とお考えになっているのでしょうか。「だってここはアメリカじゃん。」の ひとことで押し切ってしまうのでしょうか。それとも、もっと他の理由があるので しょうか。そのヘンのこと、知りたいところです。
 私の考えも追々お話ししていくつもりです。
 なにはともあれ、「たくあんの問題」でした。
 では。                     編集人
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『VOICE』

@『投票しない日本人とアメリカ人』
 10月20日に行われた日本の総選挙の投票率は59.64%。低い投票率を 心配する論説を日本のマスコミは掲載した。日本にいる友人からも「政治批判だけ でなく、国民批判もしないといけない」という内容の電子メールをもらった。
 投票率が低くなるほど、日本では集票マシーン・自民党が強い。予想できた結果 ではある。自民党大勝の報道をインターネットで見つめながら、選挙の数日前 ニューヨークタイムズに掲載された、紀伊半島の小都市、大宮市の選挙運動のルポを 思い出した。老女たちがタイムズの記者の質問に対して口をそろえて「私たち 本当に政治に興味はないの。でも、投票は友達のすすめる人にするつもりよ」と 答えていた。記者はこういう地方都市の老人たちが日本の政局を決定している、 という切り口で報道していた。この指摘はまったく正しい。
そして、若い世代は「政治に興味がないから、投票しない」のが常識。
 言葉と行動が一致しているので、大宮の老女よりもわかりやすい。
 それはさておき、この「政治に興味がないけど友達のいうがままの候補者に投票 する」派と「政治に興味がないから投票しない」派の2者をあわせると、日本の 有権者の過半数を超えるのではないだろうか。
「だから日本は駄目なんだ」というのは実に簡単だ。
 では、アメリカはどうなっているのか。
 わたしの通うカレッジの教授によれば、大統領選の平均投票率は38ー40%。 しかもこの投票率は年々低下の傾向にあるという。「投票するのは政治による メリットを知っている人間だけ。それ以外の人たちはギブアップしている」と ベビーブーマー世代らしい教授は学生に怒りをぶちまけてた。
 投票しない人間が多いのは日米ともに同じだったのだ。
 知らなかった。
 投票率という点からみれば、日本もアメリカも「非民主的な国」である。この 2つの国家は世界中に紛争の火種をまきちらしているが、それがなぜなのか、また 一つ納得できた。
            石井政之(ブルックリン在住)
@編集人です。
 3カ月ほど前に私が書いた「ある痛みについて」という文に関する投書をご紹介 します。
 この投書自体は、かなり前に頂いていたのですが、スペースや緊急ネタの関係 でなかなか掲載できず、今日に至ってしまいました。この場を借りてお詫びいたし ます。ごめんなちゃい。
 で、もう1件。スペースの関係で、2週に分けて掲載させて頂きます。これに ついても、ごめんなちゃい。
 では、どうぞ。               編集人
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前略
 「ある痛みについて」です。
 7/16 NO.123の日本語を勉強していた外国人の方からの投書を読んで、それ こそ「イタイ」と感じました。たかが個人の一意見で日本語恐怖症にならないで! と叫びたくなりました。
 NO.120の竹永さんの意見には同感です。今までずっとNutsを読んできた人 なら、竹永さんの思考回路が手に取るように解るハズです。読み捨てた人も 多いと思います。その人達には何の問題もありません。
 しかし困るのは、そうじゃない読み手の人々です。Nutsの意見をNY TIMESの それと同等に受け取る事は、非常に危険だと思うのです。Nutsはあくまで個人 レベルのミニコミ紙であって、一般大衆相手の巨大メディアではないのですから。
 ただ、竹永さんの「日本語をしゃべるアメリカ人」は少し説明不足の感があり、 NO.125でもう少し詳しく描写してますが、それでもまだ十分ではないと思います。 ここが問題なんじゃないかと思うんです。
 竹永さんとNO.126のマンハッタンのオバサンに共通して云える事は、 「アメリカ人(だけじゃないと思うんですが)のしゃべる日本語は日本人の 理想的標準日本語が当然含むべき日本文化の持つマナーを完全に無視している」と 思ってるんじゃないかという事です。特にマンハッタンのオバサンは、例え 日本人でも、いわゆる一昔前のステレオタイプの日本人以外は嫌いなよう ですし........。逆に云えば、日本の文化、日本人の性質・特徴をきちんと理解した 上で、TPOに合わせた日本語をやわらかい口調で丁寧に話すアメリカ人なら 問題はないんじゃないでしょうか?
                                                   つづく
              Aug. 11th '96 匿名希望の22才
@「宇宙からの不在者投票」
 先日のUSA TODAYに以下のような内容の記事が出ていました。
 『NASAはアメリカ人が宇宙にいても選挙権が失われないようにその確保に 動いている。ロシアの宇宙船ミアに搭乗しているアメリカ人宇宙飛行士の ジョーン・プラハさんは11月に大統領選挙が行なわれるとき宇宙におり、 また宇宙へ旅立つ前にロシアで訓練を受けていたので不在者投票の手続きを 行なっていなかった。しかし、NASAはそれでも彼には選挙権があると主張し、 プラハさんの地元、州、そして連邦の選挙管理委員会にプラハさんが宇宙に浮いて いるミアからE-mailを使いモスクワのミッション基地を通じて投票できるように 交渉を行なっている。』
 さすがはアメリカという内容のお話しですね。それに比べて我等が日本は同じ 地球上にいても、それが小さな東方の島国日本の中でなければ、国民固有の権利で あるにもかかわらず国政選挙に投票できないとは何と馬鹿げたことよ。
 先日の選挙でもはっきりしたように国内と国外では支持する政党/政策が多少 なりとも違うのにその違いを反映させるシステムが存在しておらず、そのため 約70万人の在外日本人はその固有の権利と行使力と個人の意見を無視されて しまっている。
 日本国内にいなくても日本に税金を収めてる人もいれば、たまたま何らかの 理由で日本を離れてるだけで、今後この選挙結果に影響を受ける人も沢山います。
 そして、日本国憲法は第三章で国民の基本的人権を謳っています。第十一条: 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保証する 基本的人権は、犯すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に 与えられる。その後に第十五条で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、 国民固有の権利である。」と記してあります。
 この時勢においていつまでも島国根性で自分のことだけ考える日本のやり方に は、いい加減にしてもらいたいものです。それによって我々にも迷惑がかかって いることなどを考えると、この歪んだ国「日本」とシステムを変えるために 我々は声を大にして彼等に現実を認識させる必要があるではないでしょうか。
                       岡野健将
  @「彼は、ケチャップをたっぷりかけたマクドナルドのフレンチフライが大好き だった・・・。」
 静かに眠る彼を見ながら、その末の娘が言った。
 彼には、3人の息子と2人の娘がいた。その3人の息子の中の2人は「ゲイ」 だった。しかし、彼は「ゲイ」を認めようとはしなかった。そして、その中の 1人が、2年前エイズで死んだ。
 末の娘には、中国系アメリカ人のボーイフレンドがいた。でも、彼女は、 その彼を両親と共に暮らす自宅に招待することはできなかった。なぜなら、 彼女の父は、色のついた人種を家に入れることを許さなかったからだ。
 1年数カ月前、末の娘は、その中国系の彼と結婚した。彼女の父は、最初、 結婚式に出ることを拒んだ。結局、出席することになったが、結婚式の間、彼は、 その義理の息子とひとことも言葉を交わすことはかった。
 子供たちは、お互いの間で彼のことを「Judge(裁判官)」と呼んでいた。 彼らの父の職業は、「Judge」だった。「ゲイ」を認めず、「色のついた人種」を 許さなかった彼の仕事は、法を司る「Judge」だった。
 その彼が、先週の火曜日、誰にも看取られることなく、ひとり死んだ。
 72歳だった。
 その日、息子たちがいつものように彼の病室を訪れると、そこに父の姿は なかった。
 看護婦が、彼の部屋を訪れた時、彼はすでに冷たくなっていたという。息子たち がやってきた時、彼の遺体は、すでに安置所へと運ばれていた。
 死の二日前、彼は、病室で、家族と一緒にヤンキースの試合をテレビで眺めて いた。
 そこには、「ゲイ」の息子も、「黄色い」義理の息子もいた。でも、彼は、 やたらと楽しそうに、その息子たちに戦争の話などをしてたらしい。
 そしてその二日後、彼はひとりぼっちで冷たくなっていた。
 彼の棺の上には、好物だったチョコレートとピーナッツ、いつもかぶっていた 野球帽、そして、マクドナルドのケチャップが、ポツンと1個だけ置かれていた。
 「彼、笑ってるでしょ」。
 その父を見つめながら、彼女は言った。
 冬の足音が聞こえる10月の終わり、あるひとりの「Judge」が死んだ・・・。
                        ひろ
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『今週の歌』

 「ボクの死に 葬式 お通夜は 似合わない
    やるならやっぱり ”さよならパーティ”  ひろ」

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Hiroyuki Takenaga ---hiro@interport.net


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