1995年12月19日号
(No.93)
Nutsの表紙です
@週刊Nuts「平成の目安箱」
村山首相様
前略
今年も秒読み態勢に入りました。まったく大変な一年でしたね。
さて、また「ニューヨーク症候群」についてですが、今回は、あんまりむ
ずかしいこと言わずに、思いつくままツラツラ書いてみようと思います。
「ニューヨーク症候群」って、私、言ってますけど、そんなものホントに
あるんですかねえ? なんかそれについて書いてると、まるで自分が、「日
本人症候群」というものについて書いてるような気がしてくるんですが、実
際、そうなのでしょうか? 私が、「ニューヨーク症候群の特徴」と言って
るのは、単に「日本人の特徴」だったりなんかして、などと考えてしまいま
す。
最初、「ニューヨーク症候群」について書き始めた頃は、「ニューヨーク
の日本人の行動、生活様式、精神構造には、それなりの特徴があるはずであ
る。」と思ってました。実際、あるようなカンジだったんですよ。例えば、
「無愛想」とか「陰がある」などといったことです。でも、よく考えてみる
と、それって日本に住む日本人にも言えることであって、別段、「ニューヨー
ク日本人というのは、なんと驚くべきことに、”無愛想”で”陰がある”の
であった。」と強調して言うことないな、というカンジがしてなりません。
日本人って、普通に「無愛想」で「陰がある」んですよね。
この1カ月近く、書いてきた事をくつがえすような説をブチ上げてますが、
まあ、考えれば考えるほどそうなんですから、仕方ありません。では、なぜ
私は「ニューヨーク症候群」があると思ったのでしょうか?
それを説明するのは、比較的簡単です。ニューヨークに住む日本人が他の
都市(ロスとかボストン)に住む日本人と明らかに違うからです。これは、
いろいろな方々が認めています。ニューヨークの日本人は、確かに他の日本
人とは、違います。どんな風に違うかと言うと、「無愛想」で「陰がある」
のです。
やっぱり、ニューヨーク日本人は、日本日本人にかなり近いんですよ。
ニューヨーク日本人というのは、とっても日本人なんです。あの研ぎすまさ
れた無愛想さ。その哀愁の背中にべっとりとへばりつく陰。そんなモノ、日
本に行けば、いたるところにあります。ニューヨークでは、日本にいる日本
人と、ほとんど変わりない日本人が見られるのです。また同時に、日本人が
やたらと日本人できる街という言い方もできると思います。
この街には、日本人が日本日本人のように生きていける要素が十分にあり
ます。まず、日本人と日本語だけで生活することが可能です。日本食も山ほ
どあります。日本の本屋さん、パーマ屋さん、パン屋さん、ついでに、女の
子付き飲み屋さんだってあります。私、昔、沖縄の島に住んでたことがある
のですが、そこには、本屋さんも、パーマ屋さんも、パン屋さんも、ついで
に、女の子付き飲み屋さんもなかったですよ。そういう意味では、沖縄の小
さな離島なんかよりも、もっと日本なんですよね。
それと、この街の持つ雰囲気というのもあります。ニューヨークは、何者
の存在も許します。金持ちであろうと、貧乏であろうと、白であろうと、黒
であろうと、なんでもアリなのです。ですから、日本人が、バリバリに日本
人しても問題ないのです。
そんな理由で、私たちニューヨーク日本人は、とっても日本人なんでしょ
うね。
となると、「ニューヨーク症候群」の定義も少し変わってきます。「ニュー
ヨーク症候群」とは、「日本から持ち込んだ性質が、そのまま現地直送型で
ニューヨークという舞台に現れる風景」ということになります。日本人が、
海外にもかかわらず、日本人らしく振る舞うこと。それが「ニューヨーク日
本人の中によく見られる特徴」なのでしょう。なるほどね。
今年も追い込みです。風邪にはお気をつけください。では、また来週。
草々
「週刊Nuts」編集人 竹永浩之
『Nuts世界観光案内』アジア放浪編・パート16
いい笑顔の女(ひと)だった。
私たち6人は、夜遅くまで話し続けた。
例の大学生2人組は、貧乏旅行の強者で、その時までに40カ国以上を回っ
ていた。回った国の数を2人で競争し合ってるらしかった。いろいろな話を
していた。私は、ただ黙ってその話を聞いていた。
「この国に行ったらこうしなくちゃいけないんだ。」、「でも、あの国で
は、こうなんだよね。」、「それをやるのは、素人だよ。」、「あそこもな
かなか良かったよね」。
このグループの中心は、彼女だった。彼女を楽しませるために、みんな一
生懸命話していた。・・・私以外は。
みんなの話を聞きながら、彼女は楽しそうに笑っていた。そして、時々、
私の方を見ていた。自分だけがそう思ったのかもしれない。でも、私は、そ
んなふうに感じていた。
「で、あなた、何やってたの?」。突然、誰かが私に聞いた。「え? 僕
ですか。えーと、海、歩いてました」。私はそう答えた。
「えー? 海、歩いてたー?」。みんな、訝(いぶか)しげに私を見た。
彼女以外はね。
「あ、沖縄では漁師することを”海を歩く”って言うんです」。「へー、
そうなんだ。」と彼女が、他の人間ではなく、彼女がそう答えた。「そうな
んです。沖縄の漁師って面白いんですよ。」と私は、彼女に、他の人間にで
はなく、彼女に話し始めた。
海のこと、風のこと、空のこと、サメのこと、そして、自分のこと。そん
なことを堰を切ったようにしゃべり始めた。彼女はホントに楽しそうに聞い
ていた。他の連中のことは頭になかった。その時はただ彼女と話していたかっ
た。
「この2人、仲良いよな」。だれかがそう言った。「オレたちはお邪魔み
たいだね。じゃ、場所変えようか」。ひとり、ふたりと席を立った。「そん
じゃ、おやすみ」。そして、最後に彼女と私が残った。
それでも、2人は、しばらくしゃべり合った。沖縄のことだけじゃない。
いろんなこと。そのうち、かなり遅い時間になってることに気が付いた。
「じゃ、もう帰ろうか」。どちらともなく言い出し、どちらともなく立ち上
がった。
カオサン・ロードは、まだ眠りについてはいなかった。道には人が溢れて
いた。私たちは、彼女の宿の方向に歩きながら、まだ話していた。私の宿の
前を通り過ぎようとした時、私は立ち止まり、「宿まで送りましょうか?」
と彼女に聞いた。そして、「ううん。大丈夫よ。」と彼女が答えた。「そん
ならここで。」、「おやすみなさい」。2人は、別れた。宿のドアを開けな
がら、彼女の方を振り返った。でも、彼女は振り返らなかった。ふと見上げ
た夜空には、星は出ていなかった。
次の日の朝、昨夜みんなで飲んだレストランに行ってみると、彼女が男の
人と座っていた。「うちのダンナです」。彼女が普通にそう言った。いい人
そうだった。「こんにちわ」。なんとなくホッとして、私は笑って挨拶した。
そのレストランで朝飯食うつもりだったけど、なんだか居づらくて、「これ
からムエタイの練習なんです。」とウソをついて、席には付かなかった。
「私たち、今日、出発するの」。どこに出発したのかは、覚えていない。
ただ、この夫婦と会うのは、いや、彼女と会うのは、そのレストランが最後
になるはずだった。「そんじゃ、気を付けて。」、「あなたもね」。そうやっ
て別れた。そして、最後に私が振り返った時、ダンナさんの背中越しに彼女
の笑顔が見えた。
外に出た。朝だったが、日差しはすでに強かった。「サンドバックでも蹴
りに行くか」。心の中でそうつぶやいて、私は歩き出した。
バンコクは今日も暑くなりそうだった。 Hiro
『VOICE』
@さて、先週の続きです。「簡単にアメリカ人男性に騙され、利用される日
本人女性」への質問についてです。
これまで、そういう日本人女性のことを見たり聞いたりした時に、何とも
説明できない怒りと言うか、変な思いが私の心の中を飛び交ってました。ひ
とつのしっかりした思いでは、ありません。いろんな複雑なものがグネグネ
と混じり合ってました。
具体的には、こんなことを思ってました。できるだけ正直に書きます。か
なりひどい事を書きます。怒っても結構です。でも、一応、読んで下さい。
「日本人として情けない。」、「アメリカ人となんか付き合うから、そん
なことになるのです。日本人と付き合ってりゃいいのです。」、「そんなに
ナニが大きい方がいいのですか。どうせ日本人は小さいですよ。」、「日本
人として恥ずかしくないのですか。」、「日本で全然モテなくて、アメリカ
に来て突然チヤホヤされるもんだから、すぐ有頂天になってしまうのです。」、
「アメリカ人に対して劣等感があるんですよ。」、「日本人の男に当てつけ
みたいにアメリカ人と付き合うことないじゃないですか。」、「黒人とのセッ
クスはさぞいいのでしょうけど、股間だけじゃ生きて行けません。」、「あ
なたたちは、NOって言えないんですよ。ただダラダラ流されてるだけなん
ですよ。」、「ちょっとは、過去の経験というのを生かしてください。何回
も同じ過ち犯してどうするんですか。」、「もしかしたらファッションでア
メリカ人と付き合ってんじゃないですか。道、連れて歩くとかっこいいから
的に考えてるんじゃないですか。」、「あの子、かっこいいとかキュートと
か、人の顔チェックする前に、自分ちの鏡、チェックしてください。」など
など。以上のようなことが、私の心の中を駆けめぐるのでした。
読んでお分かりになったと思います。彼女たちに対する思いや怒りの大部
分は、私の「日本人男性」としての劣等感から生まれています。要するに、
-がみ根性というヤツです。「日本人女性はあんなにモテるのに、オレたち
男性群は全然モテないではないか。さびし。くやし。憎たらし。」てなカン
ジですね。
でも、です。その怒りの中には、「日本人としての怒り」というのも、しっ
かりとあります。これは、彼女たちだけに向けられているものではなく、彼
女たちを騙し、利用するアメリカ人男性たちにも向けられています。この怒
りが最近、段々とそのパワーを増してきたのです。
以前は、よくこんな思いが心の中にヒョイと現れてました。「騙され、利
用される日本人女性たちへ。あなたたちは、日本人男性と付き合わないから
こんなことになるのです。これは、あなたたちに与えられた罰です。ざまあ
見ろ、へっへっへ、です。彼女たちを騙し、利用したアメリカ人男性たちへ。
彼女たちを罰してくれてありがとう。感謝、感謝。彼女たちは罰を受けて当
然なのです。なぜなら、彼女たちは日本人男性を無視して、あなたたちと付
き合ったのですから。どうか彼女たちを罰してください。徹底的にやってく
ださい。お願いします」。んーん、かなりゆがんでますね。いつもこう思っ
てた訳ではありませんが、そういう陰湿な思いが、いつも自分の心のどこか
に潜んでいたことは確かです。
しかし、最近は、ちとばかり違うのであります。日本人女性(正確には日
本人全般)にナメたことをするアメリカ人男性に腹が立って腹が立ってしょ
うがないのです。おそらくそういうウワサ、つまり、日本人の女の子が彼ら
によって騙され、利用されてるという話を聞くのに飽きたのだと思います。
これまでは、「彼女たち、騙されてます。ええカンジやね。」と心の中でジ
メッと思ってたのですが、もうそろそろ、そういうことにも飽きてきて、醜
く屈折してる自分の受け取り方にも腹立たしくなってきて、「よく考えたら、
日本人が馬鹿にされてるってことじゃないの。」というふうに考え始めて、
「そしたら、なんでオレは、ポカーンと何もぜずに、彼女たちが日々騙され
てるのを眺めているのだろうか。」と疑問を持ち、「それならば、何とかし
ようではないか。でも、まずご当人たちは、自分達のことをどのように考え
ているのか聞いてみなければなるまい。うん、そうだ。」と思って、先週の
質問となった訳です、ハイ。
あなたたちは、自分のことをどのように見て、そして、考えているのです
か? 私は、自分の腹にあることのほとんどをブチ撒けました。私が、日本
人男性として劣等感があって、それが原因で、あなたたちに対して卑屈な思
いを持ってることも認めます。では、あなたたちの心の中ではどんな思いが
交錯しているのですか? それを考えることって、今の日本人女性にとって
すごく大切なことなんじゃないですか? 少なくとも、私はそう思います。
来週もこの話で行きます。では、また来週。 編集人
@面白い言葉を朝日新聞から。
今のインターネットブームに対する、哲学者中村雄二郎さんのコメント。
「自分にとって必要ではない情報は雑音として排除する強い意志が必要だ。
日本人は周囲と知識を共有したいという意識が強いから、情報が氾濫する時
代への対応はとりわけ難しい。」
「入手できる情報の量は確かに増えたが、必要なものはそう多くない。停滞
の時代こそ自分を見つめ直し、物事を一つ-とつ自分で判断し、自分を鍛え
る。自分が何を求めているかが見えれば不要なものに振り回されなくなるは
ずです。」
私たちの周りには、日々、いろんなものが溢れ、いろんな事が起きている。
そんな中にいると自分の立ってる場所が時々わからなくなる。今、私はどこ
に居て、そして、どこに向かおうとしているのか。
こういう時は、街を捨てて、自然に帰るに限る。
海が懐かしい。 ひろ
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