◆◆◆◆ New York Tabloid Magazine "Nuts Journal"◆◆◆◆
『NYタブロイド・マガジン "Nutsジャーナル"』 1999年10月20日号 NO.64
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============== ★チャイナタウン/見えざる人々★ ==============
小西樹里
猛暑だったこの夏の、湿気のなごりをかすかに含む秋の快晴のある日、 「New York Press」紙のコラムニスト、C.J.サリバンさんは、マンハッタン のチャイナタウンの一角で、ある老婆にふと目をとめた。
55歳にも80歳にも見える、昔の貧しい農民ふうの身なりをしたその女性 に興味を持ったサリバンさん、ひそかにその老婆の後を追う。
いつものように騒がしい雑踏の片隅で、「靴の修理1ドル」という看板を掲 げた老人と言葉を交わしたその老婆は、チャイニーズ・レストランの中を 覗き込んだり、葬儀場の前で足を止めたり、また空っぽのごみ箱を一瞥 して残念そうなそぶりを見せながら、人ごみの中をゆっくりと歩いていく。
誰も老婆の存在を意識する人はいず、観光客の一団は、まるで煙のそば を通りすぎていくかのように老婆を追い越し、中国人の住人たちはその老 婆が悪運そのものであるような視線を老婆に向けていた。
チャイナタウンに詳しい社会福祉活動者や警官たちは、街を徘徊する中国 人女性たちのことを、一泊10ドルくらいの安いホテルに寝泊りしながら生 活するとても貧しい人たち、というふうに認識する。だけど、多分、結婚もせ ず、子供も持たなかった女性たちなのだろう、という推測の真相は、老婆た ち自身にしか知り得ないこと。
この商業がさかんな街の中で、そんな老婆たちの存在は“目に見えない” くらいのものでしかない。
サリバンさんが後を追うその老婆は、あるレストランのそばの横道に入って 行くと、一切れの肉の塊を手にしてふたたび姿を現した。それからまた「靴 の修理1ドル」の看板をもつ老人のところに戻ってくると、その肉を半分渡し、 まるでピクニックに来た少年たちみたいに、ふたりで顔を見合わせ、楽しそう に笑った。
(New York Press, October 13-19, 1999)

「Nutsジャーナル」編集部

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